「親が家の中で転んでしまわないか、いつも心配でたまらない…」
「介護保険でリフォームしたいけれど、手続きが難しそうで私にできるだろうか?」
親の足腰が弱ると、自宅の段差や階段が事故の原因になり得ます。住環境を改修したくても、業者選びや複雑な書類など慣れない手続きの壁に直面し、どう進めればよいか悩む方は多くいます。
しかし、介護保険制度の仕組みを理解し手順通りに進めれば、費用を抑えながら安全な住環境を整えることは十分に可能です。難解に感じる申請手続きも要点を押さえて専門家と連携すれば、スムーズに完了できるのです。
本記事では、介護保険の対象工事の範囲や申請の流れについて、在宅支援歴10年以上の現役ケアマネジャーである河上が詳しく解説します。さらに、手すり設置などの施工事例や失敗を防ぐための事前準備のポイントも紹介します。
この記事を読み終える頃には必要な工事が明確になり、住宅改修に向けた手続きを始められるでしょう。
介護保険で使える住宅改修の基本と条件

介護保険の住宅改修は要介護認定を受けた在宅生活者が対象であり、入院中の方などは原則として利用できません。
費用の支払いは全額を立て替える償還払いが基本ですが、自治体によっては自己負担のみで済む受領委任払いを選べる場合もあります。
介護保険で使える住宅改修の基本と条件について、詳しく解説します。
住宅改修費が支給される仕組み
住宅改修費の支給は、改修工事を行う利用者が一旦全額を立て替える償還払いが基本です。
住宅改修の工事前に申請を行い、完了後に領収書などを提出して保険者の確認を受けます。審査が通れば、かかった費用の7割から9割が後日口座に振り込まれる仕組みです。
利用者の一時的な出費負担が大きいため、自治体によっては自己負担分のみの支払いで済む受領委任払いも用意されています。
償還払いか受領委任払い、どちらの支払い方法が使えるか、事前に市区町村の窓口で確認しましょう。
利用できる対象者
介護保険の住宅改修は、要介護または要支援の認定を受けて自宅で暮らす人が対象です。
介護保険はあくまで在宅生活を支える制度のため、施設入所中や入院中の期間は原則として利用できません。また、改修する家は住民票に記載されている住所地である必要があります。
入院中に改修準備を進める場合は、退院して自宅に戻ったあとに支給申請が可能となります。身体状況が変わる可能性もあるため、着工のタイミングはケアマネジャーと相談しましょう。
要介護認定との関係
住宅改修で制度を利用するには、介護保険の要介護または要支援認定が必要です。
住宅改修に関しては、障害者施策などの他制度よりも介護保険が優先して適用されるルールになっています。また、認定を受けていない場合は保険適用の改修手続きに入れません。申請から認定結果が出るまでには、通常1ヶ月程度かかります。
転倒リスクを早急に減らしたい場合は、要介護認定申請と並行して改修の事前相談を進めることが重要です。まずは要介護の認定申請を済ませましょう。
介護保険の住宅改修でできることと対象範囲

支給対象は、転倒予防のための手すり設置や段差解消、床材の変更が基本です。さらに、扉の引き戸への交換や和式トイレの洋式化など、身体負担を軽減して自宅での移動や排泄動作を安全に行うための改修も含まれます。
ここでは、介護保険で支給対象となる代表的な工事について、目的やポイントごとに詳しく見ていきましょう。
手すりの設置
転倒を防ぐ手すりの取り付けは、住宅改修で最も多く利用される工事です。廊下やトイレなど、毎日の生活動線に手すりを設置すると安全を確保できます。
浴室やトイレには縦型かL字型、長い廊下には横型など動作に合わせて適切な形状を選びましょう。玄関から道路へ続く屋外の手すり設置も、支給対象として認められています。
なお、工事不要で置くだけの手すりは福祉用具貸与という別のサービス扱いになります。目的に応じて制度を正しく使い分けることが重要です。
段差の解消や床の変更
つまずき防止のための段差解消や、床材の変更も支給対象に含まれます。わずかな段差や滑りやすい床は、転倒事故の大きな原因になるからです。
具体的には、各部屋の敷居を撤去してスロープを付けたり、畳をフローリングに変えたりします。浴室や通路の床を、滑りにくい素材に変更する工事も有効です。移動の妨げとなる箇所をなくすことで、自宅内での活動範囲を広げられます。
住宅改修の際は、安全でスムーズな動線の確保を目指しましょう。
トイレ・扉・ドアノブ交換などの改修
住宅改修では開き戸を引き戸等に変える工事や、和式トイレの洋式化も対象となります。
住宅改修は、扉の開閉や立ち座りの際に身体のバランスを崩すリスクを減らせるからです。重いドアをアコーディオンカーテンに変えたり、握りやすいレバーハンドルに交換することも可能です。
トイレに関しては、便器の向きを変える配置変更も認められています。現在の身体能力に合わせて、無理なく使える設備への変更を検討しましょう。
住宅改修の上限額と自己負担額についての介護保険での考え方

支給限度額は原則20万円で、上限を超えた費用は全額自己負担です。
自己負担額は工事費総額と負担割合で決まります。支払方法には、全額を立て替える償還払いと、自己負担分のみを支払えばよい受領委任払いの2種類があります。
ここでは、住宅改修の上限額と自己負担額に関する介護保険の考え方について見ていきましょう。
支給限度額は20万円まで
介護保険で支給対象となる工事費の上限は、原則として1人あたり生涯で20万円です。
この金額は一度に使い切る必要はなく、数回に分けて利用できます。過去に利用歴がある場合は、20万円から既に使った金額を差し引いた残額が上限となります。
たとえば以前に5万円分を利用していれば、残りの15万円分が今回使える枠です。
上限を超えた工事費用は全額自己負担となるため、残額の確認が欠かせません。将来の身体状況の変化も見据えて、計画的に支援限度枠を活用しましょう。
自己負担額の計算方法
自己負担額は、実際にかかる工事費から保険給付額を差し引いた残額で決まります。
負担割合が1割の人を例に、30万円の工事を行うケースで考えてみます。保険適用の上限は20万円のため、その9割にあたる18万円が支給されるのです。工事費30万円から支給額18万円を引いた、12万円が実際の支払い額です。
上限の20万円を超えた部分(この場合は10万円)は、保険が適用されず全額自己負担になります。見積もりを取る際は、総額だけでなく実質の支払額を必ず確認しましょう。
償還払いと受領委任払いの違い
費用の支払い方法には償還払いと受領委任払いの2種類があります。具体的には以下のとおりです。
償還払い:
・利用者がいったん工事費全額を支払う
・後日、給付分が口座に振り込まれる
・一時的にまとまった現金が必要
受領委任払い:
・利用者は自己負担分のみを支払う
・給付分は自治体→業者へ直接支払い
・初期費用を抑えられるが、利用できる業者は限定される
償還払いは利用者が一旦工事費の全額を業者に支払い、後日申請により給付分が戻ってくる仕組みです。一時的にまとまった現金が必要になります。
受領委任払いは、利用者が自己負担分(1割〜3割)のみを業者に支払う仕組みです。残りの給付分は自治体から直接業者へ支払われるため、利用者は初期費用を抑えられるのがメリットになります。
ただし、この制度を利用できる業者は限られているため、事前の確認が必要です。受領委任払いについては自治体独自の運用が含まれるため、詳細は各自治体窓口の案内も確認しましょう。
参照:厚生労働省「住宅改修における事前申請制度及び住宅改修が必要な理由書」
住宅改修の申請手順と失敗しない進め方

住宅改修で介護保険を利用するには、まずケアマネジャーとの相談や書類準備が必要です。原則として、着工前の事前申請が必須となります。
許可後に工事を行い、完了報告をすると住宅改修費が給付されます。しかし、承認前の着工や内容変更は対象外となるため、手順の順守が不可欠です。
ここからは事前準備から申請までの押さえておきたいポイントについて詳しく見ていきましょう。
申請前にやるべき準備
はじめにケアマネジャー等へ相談し、改修内容を具体的に決める必要があります。身体状況に合わない工事は、給付対象として認められない場合があるためです。
申請には申請書や理由書のほか、工事見積書や平面図、日付入りの改修前写真が必要です。書類作成には専門的な知識が必要なため、ケアマネジャーや施工業者と連携して準備を進めます。
家族が代理で申請窓口へ行く際は、委任状や申請者の本人確認書類も忘れずに用意しましょう。
参照:厚生労働省「住宅改修における事前申請制度及び住宅改修が必要な理由書」
申請から工事完了までの流れ
住宅改修で介護保険を利用するには、原則として着工前に自治体へ申請書類を提出する必要があります。自治体が申請内容について事前審査を行い、保険給付の対象として適切か判断したうえで工事の許可を出します。
申請から工事完了までの具体的な流れは以下のとおりです。
- 自治体へ申請書類を提出
- 自治体が事前審査(給付対象か判断)
- 許可が下りてから工事着工
- 完成後、領収書等を提出して完了報告
- 最終審査後、給付費が指定口座へ振込
- 支給決定まで時間がかかるため、余裕あるスケジュールを組む
許可が下りてから着工し、完成後に領収書などを提出して完了報告を行います。最終的な審査を経て、指定口座に給付費が振り込まれる流れです。
申請から支給決定までには時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールで計画を立てましょう。
申請時によくある注意点
注意すべき点は、自治体の承認が下りる前に工事を始めないことです。事前申請を行わずに着工してしまった場合、原則として保険給付の対象外となってしまいます。
「急いでいるから」と自己判断で進めず、必ず決定通知を待ちます。申請内容と実際の工事が異なると、給付を受けられないトラブルにもつながるのです。
工事中に変更が生じた場合は直ちに自治体やケアマネジャーへ連絡し、指示を仰ぐのがよいでしょう。
参照:厚生労働省「住宅改修における事前申請制度及び住宅改修が必要な理由書」
介護保険での住宅改修の施工事例

階段への手すり設置や室内の段差解消は転倒予防だけでなく、自立支援や介護負担の軽減に直結します。スムーズに審査を通すためには工事の必要性を証明する詳細な見積書や、現場状況が分かる鮮明な写真等の準備が不可欠です。
ここでは介護保険での住宅改修の施工事例について詳しく見ていきましょう。
事例1 手すり設置で転倒リスクを軽減
階段への手すり設置は、転倒防止と自立支援に大きな効果があります。足元が不安定でも、手すりを握ると昇降動作が格段に安定するからです。
実際に、介助者が体を支える負担がなくなり、見守りだけで済むようになった事例もあります。トイレ移動などの生活動線を、自分自身で維持できる点が大きなメリットです。
利用者の安全性が高まれば、住み慣れた家での生活を長く続けられます。
事例2 段差解消で室内移動を安全に
室内の段差をなくす工事は移動時の恐怖心を消し、転倒事故を防ぎます。すり足で歩く高齢者にとって、わずかな敷居でもつまずく原因になるからです。
居室や廊下の段差をフラットにするとふらつきがなくなり、スムーズに移動ができます。結果として本人の活動範囲が広がり、家族の介助負担も軽減されます。
安心できる住環境を整えることは、利用者の生活の質を高めるために不可欠です。
事例から分かる成功のポイント
審査をスムーズに通すには、詳細な見積書と鮮明な現場写真が欠かせません。内容が曖昧だと、工事の必要性が判断できず差し戻しになる恐れがあるからです。
見積書には手すりの部品一つまで数量を明記し、写真は部材がはっきり写る構図で撮影します。固定状況が分かる証拠資料を揃えると、手戻りを防げます。
住宅改修申請前の書類チェックを徹底し、スムーズな着工を目指しましょう。
参照:厚生労働省「住宅改修における事前申請制度及び住宅改修が必要な理由書」
介護保険での住宅改修でよくある質問
Q. 工事は必ず事前申請が必要ですか?
介護保険の住宅改修費を受け取るには、着工前の申請手続きが必須です。行政が事前に工事内容を審査し、保険給付の対象として適切か判断する仕組みだからです。
具体的には、ケアマネジャーが作成した理由書や工事の見積書、改修前の写真などを提出します。もし審査結果が出る前に工事を始めると、給付金は一切受け取れません。
トラブルを避けるためにも、決定通知が届いてから着工する流れを徹底しましょう。
Q. 工事業者は自分で探してもいいですか?
施工業者は、利用者が自由に選んで依頼できます。しかし、介護保険の知識や実績には差があるため、複数社から相見積もりを取って比較検討することをおすすめします。
契約時は金額だけでなく、アフターフォローの体制についても確認しておくと安心です。
なお、申請後に工事内容の変更や追加が生じた場合は、速やかに自治体へ連絡を入れましょう。工事内容を無断で変更すると給付対象外になる恐れがあるため、再申請の手続きを確認します。
Q. 賃貸住宅でも住宅改修は使えますか?
賃貸住宅でも制度を利用できますが、家主など住宅所有者の承諾が必須条件です。他人の所有物を手を入れるため、トラブル防止の観点から承諾書の提出が求められます。
承諾が得られない場合は、残念ながら住宅改修費の支給の対象にはなりません。また、退去時に元の状態へ戻す原状回復の義務や費用負担についても、事前に話し合いが必要です。
後々のトラブルを防ぐため、書面でオーナーの許可を得てから申請に進みましょう。
Q. 介護保険 住宅改修は自分で工事しても対象になりますか?
利用者自身や家族が工事を行う場合、材料の購入費のみが支給対象となります。自分の手間賃である工賃(人件費)は保険給付に含まれず、全額自己負担となるため注意が必要です。
申請時には、ホームセンター等で購入した材料の領収書や、品目の内訳が分かる書類を提出します。また、介護保険の対象となる改修内容かどうかの確認も欠かせません。
材料費だけでも保険給付を受けられれば自己負担を軽減できるため、事前にケアマネジャーへ相談しましょう。
参照:厚生労働省「介護保険における住宅改修実務解説(Q&A)」
Q. 介護保険 住宅改修の限度額はリセットされますか?
支給限度額の20万円は原則として使い切りですが、特定の条件下でリセットされます。要介護度が著しく重くなり3段階以上上昇した場合や、転居した場合などが該当します。
例えば、要介護1の人が要介護4になった際などに、再度20万円分の枠が利用可能です。ただし、転居先から以前の家に戻った場合は新たな支給枠は発生しません。
身体状況の変化や住み替えに合わせて、制度を有効に活用していきましょう。
まとめ:介護保険の知識を身につけて住宅改修を活用しよう

介護保険の住宅改修は、条件さえ押さえれば在宅生活を支える心強い制度です。
介護保険の住宅改修を活用すれば、最大20万円の支給枠を使って手すり設置や段差解消などの工事が可能です。費用の負担を抑えながら、親御さんの転倒リスクを減らし、安全な在宅生活を支えることができます。
重要なのは、必ず工事の着工前に申請を行うことです。自己判断で進めず、まずは担当のケアマネジャーへ相談しましょう。専門家のサポートを受けながら適切な手順で準備を進め、安心できる住環境を整えましょう。

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